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ケーススタディ:大津中2いじめ自殺

「自殺の練習をさせられていた」
「蜂の死骸をむりやり口の中に押し込まれていた」
「教育委員会がアンケート結果を一部隠蔽していた」

など、自殺が起こってから次々と深層が明るみに出た滋賀県大津中学の2年生自殺事件。

この事件を初めて本格的に取り上げたのが共同通信大阪社会部であり、そのレポートをまとめたのが「大津中2いじめ自殺」(PHP新書)です。


大津中2いじめ自殺大津中2いじめ自殺
(2013/05/17)
共同通信大阪社会部

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本書を読みながら、何が問題だったのかについて組織マネジメントの構造的な問題について考えたいと思います。多くのメディアは犯人探しをして、その人を批判(もしくは袋叩き)して終わりになるのですが、同じような問題が繰り返されるのは、組織の根本的な問題が解決されていないからです。

「官僚たたき」の構造も基本的には同じですが、個々の職員はむしろ「良い人」が多いような気がします。いじめ問題が起こったクラスの担任にしても、

「へっへっへっ、私のクラスでいじめが起こればいいんだ」

とは思っていなかったはず。ということは、個人を責めても本質的問題は解決しないのです(だからといって個人の責任がないという訳ではありません。)

本文中で特に気になった部分は下記です。


1) 学校は文部科学省の道徳教育指定校にも選ばれ、つねに「地域一番校」としてモニターされる存在だった(P18)

2) いじめが起きた際の迅速な対応につなげるための詳細なマニュアルもきちんと備えていた(P18)

3) 夏休みがあけ、2年の男子のあいだでプロレスごっこが流行った(P30)

(これを機に、健次(被害者)に対する少年(加害者)2人の暴行はエスカレートし、日常的になっていく)

4) 健次の父親は担任にいじめについて相談したが、”ケンカ”があっただけと回答した。「それっていじめちゃうんですか」と確認する父に、樽井(担任)と学年主任は「うーん、いじめかどうかは・・」と言葉を濁した(P55)

5) 健次はなくなる前に一度だけ、祖母の前で「暗い山の中で一人で死にたい」と漏らし、涙を見せた。健次を抱きしめ慰めた祖母は「いじめは止められなくても、死ぬ事は止められた。止める機会はあったのに」と自責の念を語る。(P231)

6) 生徒の自殺後、加害生徒2人は「主のいない机の上に花を飾るどころかゴミを置いたり、そこで楽しそうにトランプを始めたりした。」先生が廊下から仁王立ちで睨みつけていたが、何も注意しなかった。「なんや先生、見てても知らん顔か」「先生は何もせず、野放しにしている」と生徒の間で失望感が広がった(P73)

7) 生徒達がみずから行動を起こした(←*事実を告白)背景には、放っておけば学校は何もしてくれないとの思いがあった。直後に校長が記者会見で「いじめは把握していない」と発言するなど、学校側が隠蔽と受け取れる対応をした事への不信感が募っていた(P74)

8) 教員の多忙化は確実に進んでいる(P104)

9) 1999-2005年度の七年間は児童・生徒のいじめによる自殺は「ゼロ」と報告されていたが、こうした事例が相次ぎ「実態を反映していない」「数字減らし至上主義だ」と批判が沸き起こる(P163)

10)「子どもの命を保護する最終的な責任は文科省にある」2012年8月1日、大津市の事件を受けて発足した「子ども安全対策支援室。」(P166)

11) 文科省は教育現場の評価基準を変えるように求め、全国の教育委員会に通知が出された。教員の勤務評定につながる「教員評価」で、いじめの未然防止や早期発見が出来たり、問題を隠さず適切に対応できた場合に、プラス評価することを例示(中略) 警察と積極的に連携するよう求める通知も行った。(P168-169)

12) (全国の小学校教員へのアンケート調査結果)問題や悩みが起こった時「自分で解決するしかない」という回答が「管理職に相談している」を上回っている事だ。同僚に相談した後、最後は自分は解決するという責任感の現れかもしれないが、個々の教師が学校のなかで孤立しがちな様子が見て取れる(P215)



・まず疑問に思うのが、「いじめ対策マニュアル」があったのにそれが活用されなかった点です。その主な原因は、

「教室でいじめがおこるのは、教師の能力が足りない証拠だ」

という暗黙の了解があったからだと推測できます。また同校が地域のモデル校だったということも、恥部を隠すような力学が働く要因になったのではないかと思われます。

もし、この間違った前提が、(4)のように、担任のいじめ認定を遅らせたとするなら、(11)の評価を変える点は、マネジメントコントロールの観点から極めて重要です。

・最近の教師の多忙化は、「環境コントロール」の明らかな失敗であり、早急な改善が必要です。基本的にはリソースのコントロールがきちんと出来ていないのです。

・志ある生徒が「先生は野放しにしている」と感じるほど学校マネジメントがひどかった=モラルの崩壊が起こっていた要因は、

・厳しい生徒指導をする職務権限が教員に与えられていなかった
・ルールが明確ではなかったから(何をいじめとしていいか判断できない)
・自分の教室でいじめが起こると、自分の査定が下がる


などの理由だと推測できます。トップが教育の原理原則をきちんと明示し、教員全体でそれを厳格に実行して責任を負うという姿勢を明確にしていたなら、ここまでひどくならなかったはずです。教員の査定を個人ベースではなく、数クラスの担任をまとめたグループ評価(「Group-based Rewards」)に変えれば、お互いに牽制が効き、相談もしやすくなるため、現状は改善されるはずです。

・文科省も現場に突き上げられて、重い腰を上げたように見えますが、なぜ1999-2005年度の七年間に児童・生徒のいじめによる自殺は「ゼロ」と報告されていた事に違和感を持たなかったのでしょうか?おそらく、これもそういう積極的な対策をとる事が省内で積極的に評価されない風土があったからではないでしょうか?

マネジメントコントロール的に見れば、今回の事件を通じて改善点がたくさん見えてきます。そしてそれは全国の学校にも応用できるものです。ぜひこのような痛ましい事件が起こらないように、予防的なアクションを取り、楽しく充実した学生生活が送れる学校を実現してもらいたいと思います。

また企業で行われるパワーハラスメントも、ほとんどこのような「いじめ問題」と同じ構造を持っており、対策もほとんど同じである事を書き添えておきたいと思います。
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若林計志

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株式会社フローワン代表取締役。日本最大級の海外オンラインMBAを立ち上げ、事務局長を約11年間務めた後、独立。ビジネスパーソンのマネジメント力アップ、学習システム/アプリの開発等に取り組んでいる。 TOCfE国際認定コース修了。コロンビア大学大学院ICCCR 交渉術講師認定コース修了(by Dr.B.Fish) info@flow-one.com

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