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第4段階:部分最適化とイノベーションのジレンマ(組織の法則:会社成長の5段階説)

「現場」と「マネジメント」の権限調整にうまく折り合いをつけた企業は、第4段階に入っていきます。

儲ける仕組み(ビジネスモデル)が確立され、その仕組みをスケール(拡大再生産)させることが最重要課題になるため、定型化(標準化)された仕事を早く、そしてきっちり回せる”真面目な”人材が多数必要になります

このような職能別組織を最も効率的にマネジメントするための組織形態こそが「官僚型組織」です。

仕事の標準化によって圧倒的な効率化が図られ、コストが抑えられるために利益が増大します。

現場ではオペレーションレベルの「改善」は継続的に求められるものの、社員の我流のやり方や、ビジネスモデルを変えるような踏み込んだ提案は

「余計なこと」

として迷惑がられます。(現行のビジネスモデルがうまくいっているのに、それを変えようとすれば否定されるのは当たり前で、そういう異端な人材を社内で抱えるのには経営者の器が問われるのです)

もちろん水面下で進行するこのような組織の「官僚化」は、ビジネスがうまくいっているうちはほとんど見えませんし、むしろ好意的なものと捉えられます

しかし売上がだんだん低下し始めると、突然問題として水面下から浮上します。

というのも、(良くも悪くも)既存の業務を粛々と遂行する人材だけが社内に残っているので、いまさら新しいビジネスモデルを構築する必要に迫られても、その人材がほとんどいないからです。ただ当面、組織は「安定」しているので、そのホメオスタシスを壊そうとする動きには、激しい抵抗が起こります。


多くの成功した企業がこのステージで苦しみますが、うまくマネジメントすれば、一歩抜け出て次の大きな飛躍を遂げるきっかけにもなります。



<このステージの特徴>
・ 各部門は「投資単位」として扱われる。投資効率を測るために、IRR(内部収益率)やNPV(正味現在価値)などのファイナンス手法がさかんに使われる

・ ITなどを活用した様々なマネジメントツールが導入される

・ヒエラルキーがしっかりした職能別ピラミッド型組織になる(よい意味でも悪い意味でもマネジメントは「重く」「組織的」になる)

・高度な内部統制システムによって情報漏洩やコンプライアンス違反などのリスクは低減される。上場企業であれば、さらに仕事の自由度はさらに制限される。



<コンフリクト/形式偏重主義による静かな対立>

・ 経営者は「人」よりも「数字」(部門の投資効率)に目が行きがちになる。同様に管理職は「予実管理」の元で数字ノルマに追われるため、部下ではなく、部下の出す「結果」にしか興味を持たなくなる。

・それぞれが”縄張り意識”を持っており、組織の「部分最適化(タコツボ化/サイロ化)」が進んでいる。部門別採算(事業部制)の元では、自部門の利益が、会社全体の利益に優先するため、部門同士は敵対関係やライバルの関係になる。結果として、他部門の意思決定はお互いに神聖不可侵の領域となり口出しはタブーとなる。

・社内ではしばしば部門間の強い横並び意識から、どこかの一部門が何かを変えようとしても「不公平になるから」という理由でなかなか実行できない(良い意味でも悪い意味でも「和」が保たれている)。その中で、中間管理職は部門間で根回しをしたり、波風を立てないように調整に忙殺される。

・階層(縦のライン)でも「部分最適化」が進み、戦略を練る「頭脳」と、手足を動かす「現場」に分断される。<わたし考える人、あなたやる人>という、いわゆる「ホワイトカラー」と「ブルーカラー」の断絶の中で、お互いに責任を押し付け合う状態になりやすい。

・変革を必要とする新たな問題に徐々に対応できなくなる一方、社内でリーダーシップを取ることは、その結果責任を問われるリスクを高めるため、ますますマニュアルが求められるようになる。その結果、与えられた範囲の仕事を”そつなくこなす”社員が増える。当然「想定外」に対して思考停止する傾向が強くなる。

・現行のビジネスモデルの行き詰まりを見せる中で、トップからはイノベーションの重要性が叫ばれ、新規事業提案制度や社内ベンチャー制度のような仕組みが作られるが、大抵うまくいかない。イノベーティブなアイデアほど現場レベルでは単に”和”を乱し、余計な仕事を増やす迷惑な存在として捉えられるからだ。

現在の組織体制は今のビジネスモデルを遂行するために最適化されているので、新たな部門間の協力体制や利害調整を必要とするイノベーティブなアイデアは、「それはウチの仕事ではない」「今でも手一杯なのに」と各部署から強い反発が起こる。

・各部門は年度毎の予算(ノルマ)できっちり管理されているため予想がつきやすい利益を追求する傾向がどうしても強くなり、長期的な投資を必要とする技術開発や、不確実性の高いアイデアの大部分は後回しになるか、却下されてしまう。

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<マネジメントコントロールの視点>
・ 無意味に見える仕事や、理不尽な社内ルールがあっても、それを積極的に変えようする人はほとんどいない。上司に楯突く”半沢直樹”的なタイプが生き残るのは難しく、孤軍奮闘する姿に周囲は同情はするものの、自分が目を付けられては困るので「分別のある大人」として傍観者に徹する場合はほとんど。

・「それなりの給与をもらって、それなりに満足できる仕事をしている」という現状の元では、余計な事をしてわざわざ安定した生活を失うリスクを取る人は少ない。ただ「おかしいな」と思う事や、不満がない訳ではないので、その大部分は居酒屋のグチへと消える。また同時期にうつ病を患う社員も増える。

・ベンチャー気質が強かった会社も、「大きいこと、安定していること」が理由で入社している社員がどんどん増えてくる。そのため社内では「ルールに従うことが正しい」という価値観(=空気)が徐々に醸成され、組織に過剰適応した社員が保守的な「空気」(=同調圧力)を加速させる。そして、それは必然的に社内に残る武闘派型の上司との対立を生んでしまう結果となる。(仕事に「安定」を求める部下にとって、会社に逆らったり、ルールを変えようとする熱い上司は、はた迷惑な存在に映るからだ

下記は同じ事象に対する社内の受け取り方の変化の一例。

(変化前)→(変化後)
 臨機応変→優柔不断/いい加減
 スピーディー→拙速/無謀
 直観 → 非論理的
 
・ 経営は安定する一方で、外部環境の変化にだんだんと対応できなくなってくる(いわゆる「ゆでガエル」状態)。部門間をまたがる新たな問題(たとえばクレーム)が発生するたび、各部門で責任がたらい回しになる。

・「自分の身は自分で守らなければならない」という意識が浸透しているため、他にベターな選択肢があれば転職する社員が増える(一部の役員を含め)。

・ 個人間の相互信頼関係に基づいた人間らしいマネジメントシステム作る必要性がだんだんと認識される。



●イノベーションのジレンマ

この第4段階で、会社が直面する危機こそが

「大企業病」

です。市場では、異業種からの参入やベンチャー企業が次々と出てきて、自社の得意分野に新しいサービスや商品を投入します。

それらの大部分は取るに足らないものですが、いくつかは市場に受け入れられて急成長し始め、最後には大企業さえひっくり返してしまいます。

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たとえばデジカメが出始めの頃は、解像度があまりに低く、「プロはやっぱりフィルムカメラだよね」というのが常識でした。ところがデジカメはその後急激に普及し、フィルムカメラ市場を一気に奪ってしまいました。
dilemma.jpgハーバード大学のC・クリステンセン教授は世界的ベストセラー「
イノベーションのジレンマ」で、斬新な製品やサービスで成功した企業が、その後どのようにして衰退していくかについて詳しく分析していますが、それによれば企業が犯しがちな誤りは、

「過去の成功体験」

に固執してしまうことなのです。

「iモード」の成功で世界最先端を走っていたNTTドコモが、スマホを過小評価して後塵を拝したり、巨人マイクロソフトがモバイルの潜在的普及力を読み切れずに敗戦したような状態です。

通常、会社の規模が大きくなるにつれ、経営幹部に

うちの会社は、ちょっとやそっとでは潰れない

という慢心が生まれやすくなります。

また一般社員の多くも「自分たちは勝ち組の優良企業に勤めているのだ」という外部に対する優越感から、現状に対する根拠のない自信(慢心)が広く浸透していきます。

あくまで”現状ではうまくいっている”訳ですから、それにほころびが見え始めても、通常はそれを「変えることのリスク」の方が大きく見えてしまうのです。

そして「変えなくても大丈夫なのだ」というある種の”神話”を信じたい心理から、盲目的になってしまうのです。その意味では組織規模の拡大によるイノベーション排除の傾向は、組織が本質的として内包している性質(罠)なのです

ただ現実は甘くなく、一生懸命みんなで既存のビジネスを磨いているうちに、新たなライバルの出現や市場の変化によって、ある日突然ひっくり返ってしまう、いわゆる企業の「突然死」が起こります。

もちろん、そのような「突然死」のリスクについて、誰も気づいていない訳ではありません。

例えば、倒産したコダックの社員の中には、デジカメが脅威になることを予見してした人がいなかった訳ではありません。実際には危機感を募らせ、将来を見越してデジカメ事業に本格的に取り組もうとした人々もいたのですが、株主の多くはそれを望みませんでした。

なぜなら、現状で儲かっているフィルム事業を潰すような戦略は利益相反(カニバリゼーション)であると考えたからです。そして、実際それを推進しようとした経営陣は、投資家によってことごとく無能の烙印を押して次々に交代させられたのです(*文末に参考図書)

ところがコダックが傾きはじめた瞬間、投資家は一斉に資金を引き上げてしまい、同社はゲームオーバーになってしまったのでした(短期的ROEアップを期待する株主との関係をどう保つかは、イノベーションにおいて重要な経営課題と言えます)
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同じように米NetFlix(映画などの動画配信会社)が、将来ビデオレンタル屋を倒産させる可能性に気づいていたブロックバスター(米最大手ビデオレンタル店/2010年破綻)の社員も大勢いました。

ただし、フランチャイズ化が進んだ同社でそのような声が主流派になることはなく、むしろ会社の価値を理解していない(否定する)人間として非難の対象となってしまったのです。


●イノベーションを阻むもの

拙著「MBA流チームが勝手に結果を出す仕組み」にこんな一説があります。

「(イノベーションを起こすには)業務には直接関係なさそうな活動も必要になる。そういった活動を通じて得た情報や経験が、ある瞬間に頭の中でつながって、ひらめくという事がよくあるからだ。そういった「金になるのかならないのか分からない活動」を見守るのは、管理する側に忍耐が必要になる。」(P123)

イノベーションは、それなりの環境があれば一定の確率で起こる現象です(低い確率ですが)。例えば「ロケフリ」(製品名「エアボード」)などを生み出した元ソニーのカリスマクリエイター前田悟氏が、会社を離れた理由として

「昔は他部門の人と自由にディスカッションできたが、上長の許可がないとできなくなった」

「余った材料で勝手に試作品を作れたが、それが出来なくなった」

とインタビューで語っていましたが、このように管理をキツくすると、イノベーションは起きづらくなります。

実際ソニーでは、AppleがiPodやiTunesを発売する前に、MP3ウォークマンやVAIO(PC)を発売していましたが、出井氏主導の組織改革(EVA(経済付加価値)やカンパニー制など)によって加速した「確実性を高める(不確実性を回避する)指標」や「部門最適(タコツボ化)」の弊害によってAppleに先を越されてしまいました。

具体的にはSME(ニュージック部門)がCDの売り上げダウンを懸念してネット配信には強硬に反対したり、PC部門とオーディオ部門で綱引きしている間に、アップルがその横を軽やかに駆け抜けていったのです。(出井元CEOの日経WBSインタビューによる。)

さらに熱い技術者集団であるはずのソニーで、技術がないがしろにされる状況が発生しており、熱いソニースピリッツを持つ技術者ほど、会社に反発して会社を去るという逆転現象が起こっていたのです。

よく「イノベーションを起こすにはどうすれば良いか」が議論される事がありますが、実際の現場では無数のイノベーションの種が生まれており、それが芽を出す前に、組織的に潰してしまっているのが真の問題なのです。

したがって、「イノベーションをどうやって起こすか」を考える前に、まずは

「いかに革新的なアイデアが出てくるのを阻害しないか」
「出てきたイノベーションのタネをどうやって守るか」


を考え抜いた方が、確実に結果が出ます


普及カーブ残念ながら多くの場合、経営幹部は創業者のような「起業家タイプ」ではなく、アーリーステージのビジネス経験もありません。

社会学者ロジャースが表したイノベーションの普及カーブで言えば、すぐには新しいアイデア(変化)を受け入れない慎重派(右の方のグループ)に属しているのです。

そして、そういうタイプだからこそ現在のポジションにいるのです。

またイノベーションの多くは「社内」と「社外」(市場)との接点(摩擦)で起こりますが、現場感覚に乏しいと「合理的」にしか判断できません。(しかしイノベーションは合理的ではないからこそイノベーションなのです)

したがって、既存事業を分析したり、改善したりするマネジメントには長けていても、0から1を作る新規事業の良し悪しを判断するのには本来向いていないのです。(もちろん全てにおいて”賢い”ことを自負してる本人はその事実を認めたくないのですが。)

これは適材適所の問題で、決まった案を実現に向けて調整する際や、正確に管理する際に彼らは大きな力を発揮します。

そもそも新しいアイデアに対して[YES][NO]を表明する事はリスクを伴います。だからこそ、多くの会社で

「他社はやっているのか」
「成功する保証があるのか」
「失敗したら誰が責任を取るのか」

など、アイデアを育てるよりは、石橋を何百回も叩くリスク回避型の議論が行われ、最後には

「いまはまだ時期尚早だ」

と判断は先延ばしされます。

こうして「社内ベンチャー制度」「新規事業企画室」のようなハコを作ってはみたものの、画期的なアイデアほど、提案するたびに「もっと検討せよ」と差し戻されるという”無限ループ”に入り、そのうち大部分は消滅します(もしくは即断即決できる他社が、そのチャンスを奪っていきます)

●罠に落ちるメカニズム

では、なぜ多くの組織がこのような罠に落ちるのでしょうか?

それは「何らかの意思決定をする」より、「何かの意思決定をしない」の方が、後々の失敗の責任を問われるリスクが低いからです。イノベーションを起こすようなアイデアの成功確率は決して高くないため、はっきりした意思決定を保留した方が組織内での勝率が高くなるのです。

このような状態が続いた結果、主義主張がはっきりしていて足下をすくわれやすい人(敵を作りやすいタイプの人)よりも、前例踏襲型で波風を立てず、失敗しない人の方が相対的に出世競争で生き残ります。(一部には自分の失敗を他人に責任転嫁して出世する猛者もいますが。)

また株式会社の資本は株主から預かったものですから、確実なリターンを見込める案件に投資するのは当然と言えば当然です。特に上場企業であればそのプレッシャーは並々ならぬものがあります。

そこでクリステンセンのいう「破壊的イノベーション」よりも、投資効率が予想しやすい「持続的イノベーション」にシフトしていきます。

もちろんカリスマ創業社長の意思決定であれば多少リスクをとっても

「もともとこの人が作った会社だし、何か”持っている”のかも」

という株主の期待や、社員の支持により「破壊的イノベーション」への投資が許される事がありますが、サラリーマン社長はそうも言っていられません。よっぽど自分の「目利」に自信がない限り、過去の業績から収益が予想しやすい手堅い経営スタイルを好む傾向が強くなります。

映画会社で過去のヒット作から「●●2」といった、続編を作ろうとするのはその一例ですし、前述したソニー元CEOの出井氏が、失敗しない経営スタイルを選んだのも、自分がカリスマ経営者ではないことを自覚し、「確実な成果」を目指したからです。

ただ、そうした過去の遺産を食いつぶしていくような”大人の手法”は、だんだんと先細って行き、おのずと限界に突き当たります

また、仮にイノベーティブなアイデアが採用されたとしても、実現に向けて膨大な稟議書のハンコを集めたり、部門間の””擦り合わせ”をしている間にエッジ(角)がとれてどんどん丸くなり、市場に出る頃にはフツーの商品やサービスになっていることもしばしばです。

●成功に潜む失敗のタネ

ユニクロは成長に伴う「第4段階」の初期に起こる罠をうまく克服した会社のひとつです。同社はフリースの爆発的なヒットによって大きな成長を遂げました。3年続いたヒットによって、組織は一気に拡大し、その組織を管理するための管理者が外部から大量に採用されました。そして「自動販売機」のように、商品がどんどん売れる中で、ユニクロ内部は官僚化していきました。

柳井会長は当時の様子について「成功ムードのなかで、組織は内容より形式が優先するようになった」といいます。

そしてフリースブームの終わりと同時に、売り上げは崖を転がり落ちるように低迷します。当時は雑誌等でユニクロ危機説が叫ばれましたが、同社は柳井氏の苛烈なトップダウン経営によって官僚化した社内の仕組みを変え、低迷から復活の道をたどる事になります。

このようなトップダウン型の改革は、官僚型組織を動かすための有効なやり方の一つであり、株主が経営陣を自由に交代できる株式会社の仕組みはそのために有効です。しかしトップの力に依存する分だけ、トップ亡き後の会社経営にリスクを内包します。


●「変える」v「変えない」の対立

組織が大きくなり、ルールを変更するのが大変になると、たいていの人々はそれに下手に逆らって危ない橋を渡るリスクを取るより、そのシステムに適応しまう方を選びます。その結果、明らかに不合理なことでも”当たり前の事”として受け入れるようになり、すっかり感覚が麻痺してしまいます。

そしてそれが問題であった事すら忘れられ、顧客の都合より、社内の都合の方が優先するようになってしまいがちです

例えば、破綻前のJALは、顧客ニーズより社内マニュアルが優先する状態に陥っていました。夫婦で予約していたフライトがキャンセルになった際、ご主人がマイレージによるチケットだった際には、奥さんだけしか別便に振り返られない、といったトラブルが現場でよく起こっていたのです。

ただ現場にそのような状況を変えようとうする動きは起こらず、上層部がそのような問題の改善に取り組む動きもなかったのです。(「JAL再生」(日経新聞社)より)

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JALの例に限らず、実際は改革すべき問題を認識している現場の社員がいない訳ではありません。ただし改革は一向に進みません。

なぜか。一旦作り上げられた「枠組み」を変えるには誰かが血が見る必要があるからです。

下手に当事者意識を持ってルールを変えようとすれば、結果は見えています。頼まれもしないのに、個人的なリスクを負ってまで改革のリーダーシップをとるインセンティブは高くありません。

ましてや、与えられている仕事(例えば研究開発)がそれなりに満足度が高く、指示通り仕事をしている限り、妙な責任を取らされたり、怒られることもないのであれば、自分に直接影響のない問題はそのまま放置(スルー)する方がむしろ自然です。(こうやって部分最適化が進んでいく訳ですが。)

「昔は良かったのだが、現状の事業環境を考えたら問題がある」というもの(ルール)も、そのまま廃棄されずに存続し続けている例は枚挙にいとまがない。

「この仕組みはもはや時代遅れだ」と主張する声が、「わが社の伝統の最も大事な部分を壊してはいけない」という反論と戦わざるを得なくなる。そうやって戦わなくてはならないことがあらかじめ分かっているから、本当にどうにもならない状況に会社が追い込まれるまで、本気でルールや仕組みを壊そうとする努力は先延ばしされる。
(沼上幹「組織戦略の考え方」P181)

組織というものは、いったん出来上がると、奉仕すべき対象よりも、組織それ自体の存続のほうが常に優先するという危険をはらんでいる。」(一倉定の社長学 第六巻「内部体制の確立」)

企業再生のプロとして活躍していた三枝匡氏の名著「V字回復の経営」にもこんなくだりがあります。

「肥大化した企業では、改革を狙い打つ弾は、前面の敵よりも、しばしば後の味方陣地から飛んでくる。企業戦略の最大の敵は、組織内部の政治性である。自分の体験から得たこの教訓を痛感する状況に、人生の中で何度、遭遇した事だろう。」


社長の庇護の元で改革を進めようとするプロですらこの状態ですから、一般社員から力ずくで改革の動きを起こすのがいかにリスクを伴うかは明白でしょう。(大抵の場合は返り討ちに遭って失脚します。)

同じ理由から「これはこういうもんだ」という前提で長い間仕事をやってきた上司にとって、既存のルールを変えようとする部下は「トラブルメーカー」以外の何者でもありません。(連帯責任を懸念する同僚や部下にとっても迷惑な存在ですし、特に50代に入って退職までの任期を「大過なく」やり過ごしたい(=逃げ切りたい)サラリーマン上司にとっては排除すべき対象です。)

結局、このような状況はなかなか変わらないため、行くところまで行って本当に危機的な状況にならない限りは、本質的な改革が行われない場合がほとんどです。


●「ピーターの法則」と腐敗の背景

USC(南カリフォルニア大学)のローレンス・ピーター教授は、このように組織が硬直化しまう状態を「ピーターの法則(Peter Principle)」と呼んでいます。

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その法則とは・・・

1)階層社会にあっては、それぞれの人は昇進を重ね「無能のレベル」に達する

2)やがて、あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる

3)仕事はまだ無能レベルに達していない人間(*通常は献身的な現場スタッフ)によって行われている


平たく言えば、硬直したピラミッド型組織においては「上にいくほどバカになる(なりやすい)」性質を持っているのです。

ピーターの法則に陥ると、出世欲が強く、手に入れた地位を死守しようとする人たちで、各ポジションが占められるようになります。

各階層において、みんな「無能レベル」に達しているため、下から問題がレポートされても、そのポジションに見合う問題解決能力がありません。そのため問題を報告してきた社員を「怒鳴る」、報告された問題を「もっと考えろ」と現場に突き返すといった本末転倒な対応になってしまいます。(これが隠蔽や不正の温床になります。)

一方で、部下も上司の能力を見抜いているので、相談するプロセスを飛ばしがちになりますが、それはこの種の人々の権力を支える拠りどころである階層社会では許されない事であり、

「オレは聞いていない」

というセリフと共にプロジェクトがひっくり返るリスクとなります。

また組織内では「情報=力」になるため、自分の仕事をブラックボックス化して、価値が高いようにアピールするようになり、社内の「風通し」が極端に悪くなります。

そして「人事評価」の基準(KPI)の曖昧さは、評価者が政治力を上げるのに好都合なので放置され、生殺与奪権を握る上司に少しでも気に入られようとする部下たちが、ゴマをすったり、おもねったりするなかで、(慶応義塾大学の高橋俊介教授の言葉を借りれば)

「いかに身を売ったか(滅私奉公や忠誠心、絶対服従)」

を競うようになります。

このような状況が常態化して「上司に逆らえない企業風土」が強化され、会社は腐っていくのです。(ここでも本質的な問題は人ではなく、あくまで上記のような組織行動を誘発する「仕組み」です。)

余談ながら、それぞれのレベルで無能に達した人は、ほぼ例外なく”偉そう”になります。これはその人の能力が限界のポジション(器)に達した事を暗に意味しています。(さらなる高みを目指そうとしているなら謙虚になるのが普通だからです。)

そしてその先にあるのは企業の衰退です。「ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階」において、ジム・コリンズはそのメカニズムを克明に記しています。

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●社長ですらなかなかシステムを変えられない

イエスマンに囲まれ、「ピーターの法則」にどっぷり浸かっている経営者も多い一方、それを回避しようとしている賢明な経営者も大勢います。ただトップダウンで組織改革しようとしたとしても、必ずしもうまく行きません。表立った抵抗はないのに指示が一向に実行されず、いつの間にか立ち消えになる状態が続きます。

*政治の世界でいえば、新人大臣の指示を省庁の官僚が「お手並み拝見」とばかり軽くあしらうようなイメージです。

重くなりすぎた組織のレイヤー(階層)をスキップして

「社長直轄プロジェクト」

が行われている会社は、まさにこの状態を回避しようとする社長の行動の現れでもあります。

マイクロソフトの軽量タブレットPC「サーフェス」の開発が、社内でも極秘プロジェクトとして進められたのが良い例です。

では、なぜこのような事が起こるでしょうか。その典型的な理由は下記のようなものです。

・現場を知らないトップが、側近が挙げてくるバイアスのかかった情報にコントロールされる「虜の関係」(もしくは「裸の王様」)になっている。

・創業者があまりに偉大だったり、前任者が相談役などにいる場合、古いやり方を否定するのが難しい

・改革を叫ぶ現社長についていっても、任期が終わった途端ハシゴを外されるリスクがあるので静観する

・組織の「部分最適化」が進んでおり、各グループによる利権構造ががっちり出来上がっているために調整がとれない(あっちを立てれば、こっちが立たない状態に陥っている。悪い意味での「和」が保たれているため、それらを変えようとすると、各グループが自分たちの存在意義や正当性を主張しはじめ、現状を変えようとする者を排除する動きになる

イノベーションを起こすようなアイデアや人は、潜在的に現行の組織システム(アーキテクチャ)を変えるチカラを内包しています。したがって既存の枠組みの中で完結するアイデアなら了解を得られますが、イノベーションが本質的であればあるほど守旧派の抵抗が大きくなる。(守旧派にとっては自らのポジションを揺るがす危険な動きに映るからです。)

これが会社が動かなくなる本質的な理由であり、企業内で新規事業がうまく行かない理由でもあります。決して社内にアイデアが枯渇しているからではないのです。

アップル創業者のスティーブ・ジョブズの言葉をご紹介します。

「クレイジーな人たちがいる。反逆者、厄介者と呼ばれる人たち。四角い穴に丸い杭を打ちこむように、まるで物事を違う目で見る人たち。彼らは規則を嫌う。彼らは現状を肯定しない。彼らの言葉に心を打たれる人がいる。反対する人も称賛する人もけなす人もいる。しかし、彼らを無視することは誰にもできない。何故なら彼らは物事を変えたから。

彼らは人間を前進させた。彼らはクレージーと呼ばれるが、私たちは天才だと思う。自分が世界を変えられると本気で信じる人たちこそが、本当に世界を変えている。」




こういうクレージーでイノベーティブな人々を許容するマネジメントを確立しないと、組織はだんだん力を失っていきます。「クレージーな人」であったジョブズ自身も、アップルの取締役会から追放された苦い経験がありますが、その後のアップルの凋落は激しく、倒産説までささやかれました。しかしジョブズ復職後の快進撃は誰もが知るところです。(ただジョブズ亡き後のアップルにはやや迷走感がありますが。)


●リスクがとれる仕組みを作る
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第4段階でのマネージャーの関心は、ルールによる合理的な管理に向けられています。しかし、本来イノベーションとは

「合理性やロジカルシンキングと反対のもの」

であり、合理的に管理しようとすればするほど、かえってイノベーションの芽は摘まれてしまいます

イノベーションは、出てきたばかりの頃は価値が正確に分からないからこそイノベーションなのです。(逆に言えば、誰でもパッと見で「イノベーティブだ」と思う程度のものは、実はたいしてイノベーティブではないのです。)だからこそ、事前にコンセンサス(全員の合意)を得るのは現実的に不可能なのです。

ソニー共同創業者の井深氏が、役員の反対を押し切ってウォークマンを発売できたのも、ヤマト運輸の小倉昌男氏が役員全員が反対する中で宅急便を始められたのも、セブンイレブン創業者の鈴木氏が絶対に失敗すると言われたおにぎりをコンビ二で発売したのも、豊田喜一郎(トヨタ自動車創業者)が周囲の反対を聞かずに、父・佐吉が自動織機で儲けたお金を自動車開発につぎ込めたのも、任天堂の山内溥社長が、社内の反対を押し切り、のちに「ゲームの天才」と呼ばれる横井軍平氏とゲームウォッチの発売にこぎつけ、それがファミコンの土台をつくったことも、そしてソフトバンクの孫氏が光回線時代を前にADSLで勝負に打って出られたのも、リスクを取れる立場にある(それについて社内コンセンサスが必須ではなかった)からです。

おそらく稟議や多数決による意思決定をしていたら、これらの商品やサービスは生まれていません。

以上の点を考慮すれば、ポスト創業者時代にもイノベーティブさを失わないようにするために、何らかの「仕組み」をビルトインすることが必要であることは明らかです。そうでなければ「前例主義」に陥るのは免れません。(*後継者にオーナー創業者のような独裁権限を与えてうまくいく例は稀です。)

では具体的にどうすれば良いのでしょうか?例えば、社員が新しいことにトライできるように社内に“遊び(組織スラック)”を作ることは、イノベーションを生むための「仕組み」としてよく知られています。

bootlegging本当に良いアイデアほど、初めのうちは誰からも価値が理解されない、もしくは物議を醸して否定されるのは良くあることです。(だからこそ、それまで誰もやらなかったのですから。)

したがって、イノベーションを促進しようとするなら、費用対効果を厳しく検証されないで、”密造酒*”を作れる仕組みが必要なのです。

Googleや、ポストイットで有名な3Mが、業務時間の20−30%を好きなプロジェクトに費やすことができるルールを作っているような例がこれに当たります。(ただ組織拡大に伴い、Google社内でも「20%ルール」は存亡の危機にあるようです。)

もちろん通常業務の上に20−30%を追加するという事ではありません。それでは合計120−130%になってしまいます。

3Mでは、密造酒づくりを「ブートレッギング(bootlegging)」と呼んで公認しています。

また老舗企業では、すぐにキャッシュにならないような技術を蓄積する重要性を経験的に知っています。

例えば、東レの炭素繊維を素材技術、日立のセンサー技術などは、初期の頃に何の役に立つのか分からず、担当者は冷や飯を食っていたりするのですが、それがボーイングの機体に使われるようになったり、ウェアラブルデバイスに使える事が分かり、結果的に大きな収益源に化けたりするのです。

●「組織の壁」と対立構造

部下が持ってきたアイデアを、

「時期尚早だ」
「投下資本利益率はどうなっているんだ!」
「こんなリスクがあるのではないか」
「他部門とのシナジーがあるのか」


と、上から目線で評論していればいいのであれば、こんなに楽な仕事はありません。部下の方も、せっかくボランタリーで出したアイデアが、現場感覚のないオジサン(もしくはオジイサン)上役に「稚拙だ」「穴だらけだ」と、さんざんけなされれば、

「何を言ってもムダだ(この人たちには所詮理解できないだろう)」
「今の会社じゃないところで、このアイデアを実現しよう」

という気持ちになり、提案をやめてしまうのが普通です。もちろん中には「いつかチャンスがあれば」とアイデアを温め続ける人もいますが、「いつか」はやって来ません。ほとんどの場合、途中で情熱を失ってしまい、良い意味でも悪い身でも現状に順応していくからです。(もしそこまで情熱を持ち続けられるのであれば、通常は起業するか転職するでしょう。)

その一方アイデアを評論した方は「鋭い指摘をした(良い仕事をした)」と思っているケースが多く、この意識のズレが「組織の壁」を作り出しているのです。(さらにぼとぼりが冷めた頃に、そのアイデアをパクって自分が提案するという荒技も使う人もいます。)

よく「優秀な人材が社内で腐っている」などと言われますが、その理由はこのような組織構造にあるのです。(逆を言えば、この問題の解決には大きな飛躍のチャンスが眠っています。)

よく経営者が「当事者意識を持て」と掛け声をかけているシーンがありますが、それだけでは何の効果もありません。というのも、社員が「ウチの会社は」「ウチの上司は」と文句をいい、経営陣は経営陣で「ウチの社員はダメだ」と不満を言っている状態そのものが、両者の「当事者意識」の欠如を表しているからです。

前述したように「当事者意識」を持てない大きな要因のひとつは、「当事者意識」を持って行動するほど責められるという組織構造があるからです。したがってそれを修正するには「精神論」ではなく、理想的な行動を促すための具体的な

「仕組み」

を変える必要があるのです。

本田看板

●「変えたい理由」と「変えたくない理由」

そもそも守旧派が「変化」(=イノベーション)を拒否する理由は、その変化を受け入れる事によって”ゲームのルール”が変わり、自分の存在意義が否定されたり、不確実が増す(=地位が不安定になる/リストラされる)ことを恐れているからです

また

「組織のポリシーがコロコロ変わるのは好ましくない」
「部門間の不平等は良くない」

という考え方や、強い責任感から「抵抗」という態度が出てくることもあります。

会社一筋のベテラン社員が(自分が考える)働きやすい職場環境を守ろうとした結果、いつの間にか変革を阻害し、現体制を守る「抵抗勢力」側になってしまっているという不本意なケースもあります


もちろん現時点で最高にうまく行っている状態なら何も変える必要はありません。ただ現実にはそうないなら、これらの人の「思い込み」(=パラダイム)を変える必要が出てきます。そのためには具体的に2つの方法があります。

・変化を受けいれるリスクを減らす
 (たとえば一部の部署で新しいやり方を試験的に採用する)

・変化が自分にとってプラスになる仕組みを作る
 (失敗しても社内では評価されるなど)


いずれにしろ、安易に人を悪者扱い(人のせい)しないのがキーポイントです。それぞれの人が自分なりに組織を良くしようと思って行動した結果が、組織の硬直化や重さを作っている原因かも知れないからです。したがって大事なのは、人を一定の行動にかり立てている「仕組み」の再設計なのです。

「叩くべきは社員個人ではない。誤った組織の仕組みや経営システムが社員を病んだ行動に駆り立ててきたのである」(P245 「V字回復の経営」三枝匡)



●「大企業病」を排除する仕組み

成功している企業を見ると、かけ声や気合いではなく「仕組み」として大企業病を排除しています。例えば、それぞれの部門が、あたかも個人商店として内部取引を行う「アメーバ経営」はその一例です。

またGEはワークアウトやCAP(Change Acceralation Process)のような組織変革の中核プロセスをビルトインしていますし、リクルートでは、成功/失敗に関わらず、新規事業を提案したこと自体を評価する「仕組み」を採用しています。(クリエイティブな会社がクリエイティブであり続ける理由は、気合いではなく、仕組みなのです)

企業再生(ターンアラウンド)の現場では、現場感覚を取り戻すためのカンパニー制など、経営と現場を近づけるためのさまざまな手段が取られますが、このような組織の改革手法のひとつが、社内に改革チームを作るやり方です。

第3段階で敗れ去った「武闘派」の残党が隠れキリシタン状態で社内に残っている場合があります。企業再生のプロは、このような志高いDNAの継承者をうまく見つけ出し、改革チームの騎手としてメンバーに入れるのです。

「JALでも危機感を持った若手が作った改革プランがありました。実行された案はそれが元になっています。「答え」はあったのに実行できなかった。ところが外部の大株主が単独支配するガバナンスに変わり、強力なリーダーシップのもとならできた。考えられていた通りの復活が、成し遂げられたわけです」(冨山和彦『結果を出すリーダーはみな非情である』)



また前述したように、やる気はあるのに社内で腐っている人材を支援し、彼らが作りだす小さいビジネスの成長パワーで、硬直化した既存の勢力を攻撃/破壊させるという荒治療もあります。(当然ながら彼らが守旧派に足下をすくわれたり、孤立無援の戦いを強いられないようにする必要があります。)

さらにリクルート創業者の江副浩正氏のように、平常時でも積極的に社内で部門同士を戦わせ、継続的にイノベーションを生み出すことで組織の新陳代謝を促し、事業ポートフォリオを常にアップデートしていくような経営手法もあります。

それでも社内改革が難しければ、ベンチャー企業をM&Aしたり、外部の知恵を借りるオープンイノベーション的な方法もあります。

ただ本質は前述の通り、

「誤った組織の仕組みや経営システムが社員を病んだ行動に駆り立ててきた」

ことであり、その根本的な原因は第3段階でご紹介した通り、誤ったKPI(重要業績指標)を設定し、本来つながっているはずの仕事を、「部分最適」にミスリードしてしまったことなのです。

つまり社員や部門単位では、みんな「よかれ」と思ってやっていることが、結果的に逆効果を生んでしまっている「仕組み」の設計そのものにフォーカスすることが必要なのです。


●シーンとした「報告会」会議を変えるには

組織改革を得意とする「TOC(制約理論)」で、まず行うのは形骸化してしまったミッション=組織本来の目的を再確認する事です。

「ODSC」
 ー目的(Objective):組織のゴールは何なのか?
 ー成果物(Deliverable):活動の具体的な成果は何なのか?
 ー基準(Success Criteria):どういう指標でどの程度の数値が達成できれば良いのか?

の3つを「見える化」し、全員の合意を得るところからスタートします。それがすべての改革の前提になるからです。

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もしミッションが不明確で、会社のポリシーや社長の意見がコロコロ変わるような会社なら、うかつに目立つ発言することはリスク以外のなにものでもありません。(後々、足下をすくわれる可能性があるからです。)

したがって、会議では”言った者損”にならないように、社長の顔色をうかがいながら「シーン」としているが通常です。さらに社長が誰かを攻めた瞬間、周りからハシゴを外されて、「そうだそうだ」といって吊るし上げにあう「ニワトリ会議」詳細)が行われている場合も少なくありません。

また経営会議で責任を追及された管理職が、そこに参加していない部下に責任を転化する「欠席裁判」が行われるのも、よく見られる光景です。

こういった理由から、できるだけ自分の立場や発言を曖昧にしておいた方が安全だという暗黙の了解が形成され、社内が萎縮してしまうのです。

スライド08
このような状態を防止する意味でも、成長とともに失われたミッションを会社全体で再確認し、その元ですべての組織運営の仕組み(特に納得感の高い客観的な評価基準=KPI)を再構築する事が必要なのです。

そして

ぶれない軸

が共有される事によって、会社に対する社員の信頼度や忠誠心(エンゲージメントレベル)が高まり、お互いが学び合う「学習する組織」(Learning Organization)が生まれ、結果的にイノベーションが促進される好循環が生まれます。

ソフトバンクの経営会議では、孫さん自身の提案も、役員によってボコボコにされることもよくあるとの事ですが、それが本当だとすれば極めて健全な企業の姿でしょう。

というのは、通常は「取り巻き」が勝手に「空気」を読んで、社長に諌言する(小生意気な)奴らを失脚させようとしたり、異論を唱える人に(裏で)プレッシャーをかけるからです。

そうやって自由にモノが言えない雰囲気が蔓延して、風通しの悪い会社になってしまうのです。


キレるソフトバンク ((日経BP Next ICT選書))キレるソフトバンク ((日経BP Next ICT選書))
(2014/01/31)
榊原 康



日産もゴーン氏就任前の経営会議は「お互いに干渉されなくない」雰囲気が強く、議論とはほど遠い「報告会」の状態だったそうですが、ゴーン氏がNRP(日産リバイバルプラン)の目玉として部門横断チーム(Cross Functional Team)制度を取り入れてから、会議の雰囲気は劇的に変わったといいます(「日経ビジネス」 2015.4.6 小林至 同社相談役名誉会長インタビュー)

ライフネット生命会長の出口氏も同様に、自分の経営判断について「社長はアホです」と社員から指摘されたことを喜んでいるコラムを書かれていますが、そこから読み取れるメッセージは同じです。

ポジションに関係なく社員全員が対等に議論し、共通のゴールを目指して一緒に進める体制を作ることが、第4段階から罠から抜け出すための唯一の道です。

みんなで会社をもり立てられる仕組みを作ることができれば、方向性のブレを押さえ込むための過剰な管理(メールやブログ、SNS投稿の監視を含め)が不要になります。

さらに社員同士が自発的に協力しあう関係(専門的には「組織市民行動」という)が生まれ、イノベーティブな提案が出てくるようになり、持続可能(sustainable)な組織として、さらなる成長の道が拓けます。



また高度にインターネットが発達してくると「ピラミッド型の組織を作って大勢で仕事をする」という会社のコンセプト自体が古くなってくる可能性があります。(もちろん業種によってそのスピードは違いますが。)

すでに業種によってはプロフェッショナルがネット上でチームを組んで、プロジェクトごとに仕事をこなしていくスタイルも定着しつつありますし、フリーランスとアライアンスを組みながら進めるクラウド型のマネジメントを取り入れている会社も増えています。

このように新たなマネジメントスタイルを探す模索が続きます。

◎NEXT→ 第5段階:新しい組織のかたち



成長の5段階プロローグ:基本解説はこちら
第1段階:ゼロからイチをつくる
第2段階:家業から企業への脱皮
第3段階:宦官と武闘派の戦い
第4段階:部分最適化とイノベーションのジレンマ
第5段階:新しい組織のかたち



参考記事
▼クリステンセン教授が語った、破壊的イノベーションが「起きない理由」と“Job To Be Done”
 http://bizzine.jp/article/detail/1130?p=2

▼イノベーション人材とは「キンキンに尖った一匹狼人材」ではない!
 アイデアが袋叩きにあっていませんか?(中原淳 | 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/nakaharajun/20140819-00038380/
*社内でイノベーションを起こすには応援してくれるネットワークが必要という話

▼【ソニー イノベーションの舞台裏】こうして「ロケフリ」は復活した!
http://www.huffingtonpost.jp/2014/03/25/sony-innovation_n_4990163.html

▼野田稔「アイデアは全部潰す、部下の介護なしで何もできない 悪質ダメ上司チェックリスト10」
http://diamond.jp/articles/-/45655?page=2

▼出世する人が持つ「暗黒の3要素」(「Journal of Organizational Behavior」による)
 http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702303379504580020443759352442?mod=WSJJP_Life_4_2_Left

▼抜群に出世する人の「15の行動」(日経BizCollege) *皮肉として
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140709-00000000-collegez-bus_all#!bczF7W

▼大企業で新規事業がうまくいかないことが多いのはなぜ?
(ソーシャルワイヤー株式会社 取締役副社長 庄子素史)
http://www.venturenow.jp/column/shoji/20140630022709.html

▼『となりの山田くん』はジブリの黒歴史なのか 鈴木敏夫氏が語った「あえて興行成績を落とした理由」
 http://www.dailyshincho.jp/article/2016/06240600/?all=1
 *売上の呪縛から逃れ、現場の自由を確保するために鈴木プロデューサーがやった事

▼*書籍:「いいね!」が社会を破壊する (新潮新書) 楡 周平 (著)
http://www.amazon.co.jp/dp/410610542X/
コダック破綻まで15年を同社で過ごした著者による分析が興味深い一冊。

▼書籍:組織の“重さ”―日本的企業組織の再点検
沼上 幹 (著), 加藤 俊彦 (著), 田中 一弘 (著), 島本 実 (著), 軽部 大 (著)
http://www.amazon.co.jp/dp/4532133378/
組織の「重さ」似ついての本格的実証研究です。

▼書籍:増補改訂版 「V字回復の経営」―2年で会社を変えられますか 三枝 匡 (著)
*第4段階に陥った企業を再生させるドキュメンタリー小説

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若林計志

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株式会社フローワン代表取締役。日本最大級の海外オンラインMBAを立ち上げ、事務局長を約11年間務めた後、独立。ビジネスパーソンのマネジメント力アップ、学習システム/アプリの開発等に取り組んでいる。 TOCfE国際認定コース修了。コロンビア大学大学院ICCCR 交渉術講師認定コース修了(by Dr.B.Fish) info@flow-one.com

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