1月31日、全日本柔道連盟は園田監督による女性代表選手らへのパワーハラスメントや暴力行為を認めて謝罪し、2月1日に同監督の進退伺を受理しました。
この問題を巡って、マスコミ沙汰になるまで選手らの訴えを真摯に受け取らなかった柔道連盟やオリンピック協会の「体質」の問題が社会的にフォーカスされています。
今回の一連の問題について「けしからん!」「改善をのぞむ」などの声も多く聞かれますが、根本的な問題を理解しない限り、組織の「体質」が変わる事はありません。
そこで、今回、何が問題だったのか、どんな教訓が得られるのかを「マネジメントコントロール」の視点から少しだけ考えてみます。
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マネジメントコントロールの解説はこちら)
◎柔道連盟による園田監督へのコントロール柔道連盟は園田氏に女子柔道の監督を委託しています。いってみればエージェント(代理人)として雇った訳ですが、そのモニタリング責任は連盟側にあります。
「どのような指導方法を望むのか」
「なにをやって欲しいのか、何がNGなのか」
などのガイドラインを決めるのは連盟側です。そして現場で問題が起これば、依頼者側も責任を問われます。
これを企業の例を考えれば、当たり前のことだと分かるでしょう。たとえば食品メーカーで食中毒事故が起こったら、現場の責任者や作業した担当者をクビにすれば問題が解決するでしょうか。そんなことはありません。
なぜでしょうか。それは純粋に「現場がミスした」という問題ではなく、食中毒が発生してしまうような
管理体制(コントロールシステム)に問題があると考えられるからです。
そう考えれば、園田氏個人にすべての責任を求めるのは酷です。ましてや彼は、密室で指導をしていたのではありません。連盟関係者もいる場で、公然と体罰指導していたのです。したがって彼一人を「スケープゴート」にすれば済むという話ではありません。
<ポイント>
・そもそも柔道連盟の倫理規定に「体罰の禁止」は明記してあったのか?
・園田監督は、その倫理規定を破ったから処罰されたのか?
・本人は倫理規定を十分知っていたのか?
・連盟は、パワーハラスメント/暴力行為をまったく認知できなかったのか?
下記は、その他の気になる点です。
◎評価の方法(「環境コントロール」)「環境コントロール」において、
「何を基準に評価されるのか」という基準は、人の行動に極めて大きな影響を及ぼします。園田監督の評価基準(人事考課)が、
「試合の成績のみ」(いわゆる”勝利至上主義”)によって行われるのであれば、今回のような問題が起こる危険性は十分に予測できます。したがって今後は「試合の成績」以外の評価軸を設定すべきでしょう。よく営業至上主義の会社で、押し売りなどのトラブルが発生するとの根っこは同じです。
◎評価者の王様化を防ぐ女子柔道の場合は、監督に「誰を代表にするか」を決める実質的な決定権があったために、誰も表立って逆らえませんでした。このような「
評価者の権力者化」はどこの組織でもありがちなパターンです。そのため、きちんとした企業では360度評価などの手法が採用されています。柔道連盟も同じような手法を検討すべきでしょう。
◎現場への丸投げ(「結果コントロール」)管理者(企業であれば経営陣、学校であれば校長や教頭)が「結果だけ出してね」と、現場に仕事を丸投げするパターンがあります。依頼した管理者本人は「信頼して一任した」とか「現場の自主性に任せた」というつもりですが、実態はマネジメントとは程遠い、「放棄」状態(無法地帯)となっています。「結果コントロール」は得てして「
現場のブラックボックス化」を生み出しやすくなります(今回の柔道のケースは当てはまりませんが、桜宮高校のケースは当たらずもと遠からず)。
結果コントロールは単独で使ってはいけないというのは鉄則中の鉄則なのです。
◎選手に対する強制(「行動コントロール」)現場の責任者が「成績」だけで上に評価され、部下(柔道の場合は選手)に対して絶対的な権力が振るえる立場にあると、行動を統制(コントロール)する極端な指導に走りやすい土壌が生まれます。
(すでにご紹介した通り、監督は代表選手を選ぶ大きな評価権限を振るえる立場にありました。)
このような状況で、暴力によって対象の行動を統制しようとする「体罰」はその最も極端な例です。(「現場のブラックボックス化」が進行していると、さらに状況は悪化)
以上、少し考えただけでもマネジメントコントロールと、それを組織で機能させる「マネジメントコントロールシステム(MCS)」に多くの欠陥があった事が分かります。同時に、どう改善すればいいのかも、少し分かります。
「体質の問題だ」で終わってしまっては進歩がありません。「ちゃんとすべきだ」と言ったところで、その方法が具体的でなければ、実際には役立ちません。感情論に陥らず、あくまで構造的なアプローチを考える事が必要なのです。
まだまだ論点が多いのですが、続きはまたの機会に。
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大変勉強になりました。学校における柔道教育はマネジメントコントロール不在なのですね。
健全な武道教育がなされるように、また不幸な事故が絶対に起こらないように 万全の指導体制が確立されることを望みます。 お子様が事故に巻き込まれた保護者の方のつらさを思うと言葉もありません。