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小学生の答案をバツにしてしまった先生のジレンマ

先日、面白いネットコラムを発見しました。

ある小学生のテストの答案に対して、先生がバツ(不正解)をつけている実際の写真をベースに、読者が意見を交わしている内容です。

問題文はこんな感じです。

「1ふくろ8こ入りのチョコレートが7ふくろと、ふくろに入ってないチョコレートが17こあります。全部でチョコレートは何こありますか?」

▼小学生の回答
8×7+17=73こ

答え自体は正しいのですが、先生は赤ペンで「8×7」の部分に波線を引いて

「なにこれ?」

と冷たくコメントしています。(もちろん0点)

なぜバツになったかといえば、足し算引き算を習ったばかりのクラスだったので、先生はテストでそれを使って欲しかったようなのです。つまり、

8+8+8+8+8+8+8+17=73

という答えを期待していたのに、まだ教えていない「掛け算」を使っていたので、掛け算の部分に赤を入れて「なにこれ?」(*まだ習ってないでしょ。)と書いたという訳です。

さて、皆さんはどう思われるでしょうか?

「まだ教室で教えていなくても、間違いじゃないのだから正解でいいんじゃないか」
「こういう杓子定規な教育だからダメなんだ」


といった声が大多数なのではないでしょうか?

ただし、このまま先生を悪者にしても何の解決にもなりません。

そもそも、
なぜこの先生が掛け算をバツにしてしまったのか、その背景をちゃんと理解することで問題は初めて解決するのです。

つまり、

先生個人としては「正解」でも良いと持っているが、公の立場としては「不正解」とせざるをえなかった

という状況があるのではないかと考えてみるのです。違う言い方をすれば、先生は「ジレンマ」を抱えていたのです。

これを「クラウド」というフレームワークで図解してみましょう。

先生のジレンマ

DとD'は、ジレンマを引き起こしている「立場の違い」を示しています
BとCは、それぞれの立場の奥にある「思い(本音)」を示しています。
Aは、それぞれの立場に共通している「ゴール」を示しています。


先生側のハコ(上側)を見てみると、

「(A)良い教育をするためには、→(B)(基礎力である)足し算をしっかり理解させたい、→(D)だから出題範囲以外の方法は使わないでね。だからバツ。」

もう一方は、

「(A)良い教育をするためには、→(B)向学心を積極的に評価したい→(D)だから出題範囲以外の方法でも正解ならOK。だからマル。」

という思いがあったことがわかります。

ここで重要なのは、BとD(またCとD')の間にある背景(そう思うに至った理由)です。

学校の先生は多忙です。特に日本の先生は雑務が膨大で、企業のようにIT化されていない業務も多く、正直子供にかけられる時間があまりとれないのが現状です。

つまり次々と降ってくる雑務をこなすことで手一杯なのです。
(実際、*日本の教員の労働時間は世界から見ても突出して多く、精神疾患で退職/休職する人も年々増えています。民間企業でいればブラックに近い状況にあります。)

>NHK「おはよう日本」(特集コーナー)2016年7月19日(火)
教員の長時間労働 改善に向けて


そこに来て塾でどんどん予習してくる子もいるのですから、「どの子にあわせて授業すればいいか」は、かなり重大なポイントです。

仮に、まだ教室で教えていない「かけ算」を使って黒板に回答を書く子がいて、みんなの前で先生がそれを高く評価したら、他の生徒はどう思うでしょう?

「すごいな。私も早く習いたい」

と思う子がいる一方で、「ずるいよ(まだ習ってないのに)」と思う子もいるでしょう。さらにそれが変に親御さんに伝わると

「(公立の学校で)塾に行けるようなお金持ちの子をえこひいきするようなんて、なんなのよ」

と曲解してクレームになるケースも出てきます。

義務教育は、社会人になるための「基礎」を教える場ですから、できない子を置いていく訳にはいかないし、ましてやお金持ちの子を優遇するのはもってのほかです。しかし、向学心溢れる子どもが、せっかく「掛け算」を予習してきたのに、それを全面否定するのもどうなんだろうと思う訳です。

ただ向学心を評価して「○」にしたからといって、周りがその先生の行為を積極的に評価してくれるわけではありません。

むしろ職員会議で「**先生のクラスだけ勝手なことをしないでください」と学年主任から叱られる可能性すらあります。

だからこそ難しいジレンマなのです。

もちろん先生も、多忙な業務の中でこういう(青臭い)ジレンマをずーっと抱えていると精神的に辛いので、「出題範囲以外の解答方法はバツにする」と決めてしまった方が楽になれるかもしれません。

またそれをずーっと繰り返していくうちに、「当たり前」になり、ジレンマを抱えていたことすら忘れてしまうかもしれませんし、ついには自分を正当化する方向に行ってしまったのかもしれません。(だからこそ「なにこれ」という一見冷たいコメントを書いてしまったのかも。)

ただ少なくとも、こういう風に書き出してみると、先生が一方的に「冷淡」で「杓子定規」だから、回答をバツにしたのではないことがわかるでしょう。

ベストセラー「7つの習慣」に有名な言葉が出てきます。

「理解してから理解される(Seek First to Understand, Then to Be Understood)」

これが第一歩です。

そのためには、相手に「悪のレッテル」を張しまう衝動を抑える忍耐が必要です。

実際、大多数の人が、一方的に「(日本の)先生は社会的常識がない」と思っているとしたら、それが間違っているかもしれないと理解するだけでも、問題解決者としては、相当先を進んでいると言えます。

ほとんどの先生は情熱に溢れ、子供と一緒に学校をすばらしい学び舎にしようと思って、教員採用試験を受けたはず。それがなぜ「組織人」として働いているうちに、このようなジレンマに陥り、今回のような選択をしてしまったのでしょうか?そこまで考えれば、組織自体のマネジメントの課題が見えてきます。

●ジレンマの解き方

さて、このようなジレンマを解くときに重要なのは「見える化」すること。すでに上のフレームワークで見える化したことで、一方的に先生を非難することが正しくないのは明らかです。

さらにもう一歩踏み込んで、解決策を考えてみましょう。

その方法は、今回使用している「クラウド」をはじめとしたフレームワークの開発者 E. ゴールドラット博士の愛弟子である岸良裕司氏の著書「全体最適の問題解決入門」に詳しく解説されています。

その要点をまとめると、解決策には下記の4つのパターンが存在しています。

1)「D. 先生の立場」×「C. 自分のニーズ」(手の立場優先)
2)「D' 自分の立場」×「B.先生のニーズ」(分の立場優先)
3)「D' 自分の立場」×「D. 先生の立場」(と場合によって両立させる)
4)「B. 先生のニーズ」×「C. 自分のニーズ」(案ひらめき/バリュークリエイション)

これをそれぞれの頭文字をとって「相自時妙(そうじじみょう)」の解決法と呼びますが、要は2つのハコを両立させる解決法を考えるのです。

先ほどの図(クラウド)をもう一度見てみます。

先生のジレンマ

例えば、

1)「D. 先生の立場(バツにする)」×「C. 自分のニーズ(向上心を評価)」

を考えるなら、バツの評価するけど、コメントに

「よく掛け算を使えたね!でもいまはもっと足し算の練習をしよう」

と書き添えるだけでもずいぶん印象は違います。そして、他のパターンも全部考えてみて、ベストな解決策を選んで実行し、PDCA(Plan=Do=Check=Action)サイクルを回して、ブラッシュアップ(改善)していくのです。


●個人から組織の視点に

現実的には、まずは先生個人の視点からできる解決策を考えるのがよいと思いますが、中長期的に「組織」としての学校のマネジメントの視点から、もっと別の解決策も考えられます。

例えば、現在の「背景にある原因/考え(E)」には

「先生のキャパが足りない」

という原因があります。ここを解消できれば、B→Dという流れが断ち切れます。
例えば、

ー「部活の顧問」は外部にアウトソースする
ー先生の事務作業を減らす(物理的に減らす、クラウドサービスの利用など)
ーアシスタントをつける

などが考えらます。

さらにその奥には、

学校クラスでは、様々なレベルの生徒を一律に教えなければならない」
「学校は年齢ごとに、物理的に教室に集合して行う」
「指導は人間が行う」


という隠れた前提があることがわかります。

ではこれは本当に正しいでしょうか?

たとえば、デジタルデバイスを活用して、同じ教室の中でもそれぞれの生徒が自分のレベルに合わせて学習をする方式は、個別指導系の塾ではすでに実現しています。

また物理的に集合しないとクラスは成り立たないのかといえば、これも怪しい前提です。東進ハイスクールのように教室で撮影している映像をスマホで見られるように中継したって授業は成り立ちますし、離れていても質問や雰囲気も感じられるようなVRデバイスは今後どんどん出てきます。

さらに同じ教科書指導要領をベースに日本全国で授業をしているなら、ソフトバンクの「ペッパー」のようなロボットに有名先生のモデリングした授業をやらせ、生徒からの数十万の質問パターンをクラウドで集めて「ベストアンサー」を作り出し、それを全国の先生ロボットにフィードバックしてアップデートした授業をやらせるようにすれば、生身の先生が悩まなくても良くなるかもしれません。

もちろん

「みんな同じ教室で同じ進捗で勉強するから一体感が出ていいんだ」
「生身の先生がライブで教えるから、魂が伝わるんだ」

といった意見もあるはず。そうなったら、また

「同じ進捗で勉強する」vs「個人の進捗に合わせて勉強する」
「生身の先生が教える」vs「ロボットが教える」

というクラウドを作って問題点を見つけ、クリエティブな解決法を考えていけば良いのです。




世の中の「問題」はたいていの場合、ジレンマによって生み出されていると言っても過言ではありません。

ぜひ皆さんも「クラウド」を使って問題解決にトライしてみてはいかがでしょうか?





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こちらもオススメです。

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参考記事
子どもの貧困「お金持ちになりたい、塾に通う子をずるいと思ってた」
朝日新聞デジタル | 執筆者: 朝日新聞社提供
投稿日: 2015年11月01日 09時48分 JST 更新: 2015年11月01日 10時09分 JST
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若林計志

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株式会社フローワン代表取締役。日本最大級の海外オンラインMBAを立ち上げ、事務局長を約11年間務めた後、独立。ビジネスパーソンのマネジメント力アップ、学習システム/アプリの開発等に取り組んでいる。 TOCfE国際認定コース修了。コロンビア大学大学院ICCCR 交渉術講師認定コース修了(by Dr.B.Fish) info@flow-one.com

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