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教えるスキル以上に重要な、教えられるスキル

京セラ会長の稲盛和夫さんが、1959年に京セラを起業し、まだまだ新人経営者として試行錯誤していた頃、京都で松下幸之助さんの講演を聞く機会があったそうです。

京都といえば何代も続く老舗の多い町。そこに集まった松下電器よりよほど長い歴史を持ち、しかもプライドの高い中小企業の社長さんを前に、松下幸之助さんは

「ダム式経営」

について講演しました。

ひとしきり講演が終わった後で、会場から次のような質問が飛びました。

「(あんたが言うように)余裕を持って経営せなアカンのは、みんなよう分かっとる。でもどうやってダム【蓄え】をつくればええのか?それをいわな、意味ありまへんがな。」

その質問に、幸之助さんは無愛想にこう答えたそうです。

「まず、蓄えが要ると思わなあきまへんな」

会場は爆笑。多くの参加者は

「和歌山から出てきたぼんくら社長が、ええ加減なことを言っている」

と口々にいいながら講演会は終わったそうです。

しかし、その講演に雷にうたれたように激しく感銘を受けている一人の男がいました。

「そうか。まずは強く思わないとダメなんだ」

と。

それが稲盛さんでした。

稲盛さん曰く

「まずは強く「思う」事が大事なんだ。それこそがはじめであり、終わりなんだ。みんなそれぞれに商売は違うから、ココをこうしろとはいえない。だからこそ幸之助さんは、「思う」ことの重要性を説いたんだ」

それにしても、なぜ同じ講演を聞いて、稲盛さんだけが幸之助さんの真意の見抜けたのか。そして、どうしてその後の京セラの大発展への礎を築くことができたのか。

一方、同じ場所で同じ講演を聞いた参加者には、なぜ何のインパクトもなく、「京セラ」のようになれなかったのか。ここに「教えられるスキル」という重要なヒントがあります。


●「変わる人」と「変わらない人」

ビジネススクールで勉強する学生さんにも「変わる人」と「変わらない人」がはっきりいる事を、私は経験上感じていました。

「変わらない人」は、良い意味でも悪い意味でも、ある程度賢く、クールで、プライドが高く、講義もクラスディスカッションも、やや覚めた目でみながら、要領よくこなそうとします。「オレは他の学生より頭が良い」と思っている。前述の京都の老舗経営者たちも、もしかしたらこのタイプにあたるかも知れません。これらの人は、そもそもある程度スマートでプライドが高いだけに、

「講師はAというが、僕はそのやり方は違うと思う。自分はBがベストだと思う」

という強い思いを持っています。だから、自分の考えとは違う理論や、クラスメートの意見などについて、知識として理解するけど、受け入れようとはしないし、腹の底で納得しない。

ただ反骨精神という面ではいいのかも知れませんし、それで本人が納得しているのならOKです。

逆に、学習が進むごとにどんどん成長する(=変わる/一皮むける)人は、謙虚で、スポンジのように貪欲にいろいろな知識を吸収しようとしとします。自分が違うと思うことでも、一旦飲み込んで、咀嚼する懐の深さを持っている。

自分より優れた能力を持っている人、秀でた成果を上げている人を、ねたむのではなく、素直に認め、そこから謙虚に学ぶ事が出来る。そもそも、

自分の考えがそれほど正しいなら、自分が話を聞いている”成功した経営者”より、よほど自分のほうが成功していなければならないのに、現実は違う

という当たり前すぎる事実をよく分かっている。だから、そこから、何かひとつでも自分に役に立つことを学ぼう、と謙虚になるのです。

この点で、稲盛さんが松下幸之助さんの話に素直に感動し、自分も「ダム式経営」を目指そうと思った理由がわかります。稲盛さんは起業したばかりの会社を、本気で一流にしようと思っていた。

しかし、一方で現実は組織運営も苦労の連続で、ココロのそこから悩んでいた。だからこそ、松下幸之助さんのちょっとした言葉に、激しく心が動かされたのです。まずは強く思わないとダメなんだと。

つまり、「受け入れる」という学ぶ準備ができていたのです。

同じような例で、大学受験予備校「東進ハイスクール」のカリスマ講師であり、ベストセラー「できる人の勉強法」(中経出版)を書かれた安河内哲也氏の本にも、伸びる受験生と、伸びない受験生について同じような記述があります。

長年の経験から、1年間で合格する勉強法をせっかく教えているのに、偏差値で50-55ぐらいの成績の受験生ほど、それなりに自分流でやれば成績が上がるために、「自分らしさ」を貫いて、自分が良いと思ったポイントだけ選択的に指導を受け入れようとする。しかし、結局一年浪人しても、合格ラインに達しない。

素直に受け入れた受験生は、劇的に成績が伸びて、無理といわれた難関大学にもするすると合格してしまう。やはり受け入れて、素直に学ぶ姿勢が、大きく結果を左右するのです。

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●「答えのある世界」と「答えのない世界」の勉強法

さて、ビジネスの勉強と、受験勉強を比べた場合、両者に大きな違いがあることに気づく方も多いでしょう。

そうです。受験には明確な「正解」があり、それを効率よく学ぶ事がある程度分かっており、それを行う事がそのまま成功【合格】につながることです。一方、ビジネスにはそもそも正解がありません。たしかに、アカウンティングやファイナンス、戦略などには一応「定石」(=フレームワーク)があるため、それを知らないで戦おうとするのば無謀ですが、しかし、それだけではもちろん勝てません。

では何を学べばよいかと言えば、GE、トヨタ、SONY、ユニクロのやり方が正解です、ともいえません。また世間的に昨日まで正解だと思われていた答えが、今日にはあっという間に不正解になってしまう事が十分ありえます。しかし、共通点もあるのです。

だからこそ、「何を学ぶべきなのか」を真剣に考える必要があります。つまり結果ではなく、その結果を底辺で生み出している「創造の方法論」を学ばなければならないのです。

それは資格試験の参考書で学べるような、覚えたら終わりというような浅薄な知識ではありません。一旦身につけたら、死ぬまで自分を魅了しづづけ、一生を左右するようなモノ。

そして、それを身につけられるかどうかは、

教える側以上に、教えられる側の力なのです。
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合気道の師範として多くの弟子を指導してきたジョージ・レナード氏の言葉を紹介します。 

"達人の勇気は、進んで自己を明け渡そうとする姿勢で計られる。重要なことを新しく学習するときは、どういう場合でも初めの頃は馬鹿(Fool)になることが必要だ。" 「達人のサイエンス」

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若林計志

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株式会社フローワン代表取締役。日本最大級の海外オンラインMBAを立ち上げ、事務局長を約11年間務めた後、独立。ビジネスパーソンのマネジメント力アップ、学習システム/アプリの開発等に取り組んでいる。 TOCfE国際認定コース修了。コロンビア大学大学院ICCCR 交渉術講師認定コース修了(by Dr.B.Fish) info@flow-one.com

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